伝説のキッチン 『エマーユ』 |
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タカラのキッチンを語る上で欠かせないのがこの『エマーユ』です。名前はお忘れでも、この扉を見れば一目でお解りいただけると思います。昭和52年(1977年)の発売から、なんと今でも製造販売されています。部品供給も可能な耐久商品のお手本のような製品です。
(扉本体は色の改廃の為、供給不能なカラーもあります。兆番は発売時ローラーキャッチで今はセルフクローズに変更も互換性が有ります)
『エマーユ』の名前のいわれはフランス語で<émail>からきています。意味はホーロー(琺瑯)です。その名のとおり扉、キャビネット全体をホーロー(琺瑯)製で造られています。日本語では「琺瑯」と「七宝」を分けて表現されていますが、フランス語、英語は一つの単語です。(英語=enamel) |
エマーユ |
扉の断面は独特の形状をしています。これはΛ(ラムダ)カットと言われ、凹凸の部分が取っ手のあたりに上から下まで、縦に通っています。これがまさにエマーユなのです。ただのデザインではありません。ホーロー製の製品はプレス成形した鋼板に釉薬を上塗りして高温で焼成して造ります(詳細はホーローとは参照)。ですからΛカット形状が可能なのです。木製の扉では考えられない形です。ホーロー製であることを主張しているデザインなのです。 |
エマーユ 取っ手 |
ホーローの表面はガラス質ですので光の反射が有ります。ここでもΛカット形状が光の演出をしてくれます。単色の扉ですが、角度を変えて見ることで違って見えます。
エマーユで開発された釉薬は仕上がりが滑らかで美しい光沢があり、優しい光を発します。若かりし頃、白金台の完成間際の現場に立ち寄った時、窓からの斜陽がエマーユの扉にあたり、それがとても美しく暖かで、この一家はきっと幸せな家庭になると感じたのを覚えています。
(30年以上前のことです。当時エマーユは最高級キッチンでした。以前から写真が趣味でしたので確かこのシーンを撮った筈です、見つかったら掲載します) |
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タカラ製品と花柄模様 |
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ところで、カタログやショールームを見て他社のそれとはちょっと違うところがあります。それは「花柄」のデザインがあることです。そこでやはり忘れてはならない製品がE型、R型です。現在でも「ロイヤル」「ロイヤルフラット」として製造販売しています。営業マン時代に取引先から、花柄は野暮ったいなどと言われたこともありますし、逆にそれが気に入って購入されたユーザーも大変多くおられます。デザインですので好みはあります、もちろん無地の製品もあります。
しかし、なぜタカラ製品には柄付きの製品が多いのかというのには理由があるように思います。その一つは、ホーローは陶器製のティーカップと同様に高温で焼成して作るため転写技術が使え、ホーローならではの製品が造れるところだと思います。(木製品に花柄を付けても似合いませんネ) |
ロイヤル |
「ロイヤル」の現在の花柄は2代目のものですが、初代の薔薇の花柄は、欧州の貴族の「家紋」をデザインしたものと記憶しています。日本でも家紋はあります。特に有名なのは「菊の紋章=皇室」「葵の紋章=徳川家」など、英国では「チューダーローズ=王家」などです。「ロイヤル」の名前の由縁がそこにあります。
そもそも、タカラのホーロー技術は明治時代にドイツからもたらされたものですから、欧州の伝統が込められているように感じます。製品造りにおいても、米国式の<ビルド&スクラップ>ではなく、耐久性のある永く使える物を造る欧州型であるのもそこに理由があるようです。「薔薇の花柄」はタカラの物造りを表現している大切な象徴のように思います。そして原点であるとも考えます。 |
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ロングセラー システムキッチン 『レミュー』 |
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タカラのフラッグシップモデル「レミュー」は平成2年に発売され、20年以上のロングラン製品です。当時、他社がフルオーダーのシステムキッチンを販売している中でタカラは簡易型システムキッチンのみの状況でした。その頃の営業マンはその発売を遅しと首を長くして待ち望んでいました。そして新製品発表説明会は大変盛況な盛り上がりだったことを覚えています。社員だけでなく代理店関係者でも関心が高かったことの表れでしょう。
レミューの特徴はレイアウトの対応性とグレードの高いデザイン性です。特に扉におきましては『窯変ホーロー』が採用されました。窯変とは炉の中で焼成しているときに炎の燃え方や釉薬の溶解が不規則に変化しそれが焼柄になって現れることです。レミューの扉は他のホーローが均一であることとは異なり、1枚1枚に違いがあるわけです。扉自体が一品のものと言えます。
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レミュー:ロッシュ |
レミューの扉は画面やカタログではなかなか表現できません。やはりショールームで現物を見るのが一番です。以前のことですが、カタログ(レミュー専用カタログ)におきましてレミューをよく表現しているなと思った写真が1枚だけ記憶に残っています。このカメラマンは多少なりともレミューを理解し、その扉から発する光をなんとか捕まえようとしているのが分かる写真でした。 |
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住宅の中でも光の演出は大切なデザインの一つです、過去に伺った多数の物件の中でも、間接照明や窓からの採光、使用している素材などをうまく使った素晴らしい現場をいくつか拝見いたしました。そして、知り合った住宅のデザイナーにホーローと照明を組み合わせた設計を提案したことが何度かあります、それに応えて下さったデザイナーに感謝しています。また違った視点からホーローを取り入れる住宅設計に携わる方が現れることを期待したいと思います。 |
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「窯変」は焼き物の表現で最高の技術といわれています。特に有名なのが国宝『天目茶碗』です。日本に5個しか所在がわかっていませんが、いずれも約800年前に今の中国で作られたものです。今でもその技法は解明されていません。
タカラではそれと関連付ける考えは無いと思いますが、『窯変ホーロー』はホーローの焼成技術として最高のものであることは間違いありません。 |
国宝『天目茶碗』 |
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元祖 システムバス 『エメロード』 |
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「システムバス」という表現は、タカラが命名したのが始まりです。いわゆるユニットバスは昭和39年の東京オリンピック以前には開発されていて存在したのですが、タカラでは昭和57年に「戸建用」としての発売にあわせ『システムバス』という表現を使い新たな分野を作りました。
その製品は『エメロード』です。浴槽はステンレス製で洗い場はステンレスの上に磁器タイルを貼り付けた内容で、1坪タイプの価格は¥750000でした。その頃は、単品の浴槽ばかりでしたので、1台販売するのは大変でした。しかし単品浴槽の約10台分の売り上げがあり、決まった時はとても嬉しかったのを覚えています。そして、時代はシステムバスに変わり、タカラがキッチンメーカーから住宅総合設備機器メーカーへ成長する礎になった製品でもあります。
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エメロード(発売当時) |